研究スケジュールの目安
研究とはなんぞや
「研ぎ究める」と書いて研究。それを合理的に納得させるのが論文。そこに定量的な証拠を要求されるのが理系論文。
研究の開始直後は,定性的な議論から始まる。それを具体的な数値として比較・定量化することで証拠を示すプロセスが欠けてしまうと,ただの「やってみた」レベルに落ちてしまう。定量化への近道は,どんなグラフを描くかを思い巡らすこと。とにかく何かと比較したグラフ化を構想することが,「やってみた」に陥らない近道。グラフ化の構想までが,科学的な仮説にあたり,実際にグラフを描くプロセスが科学的な検証に相当する。
この王道的な研究プロセスで陥りがちなのは,「昨年の研究をちょっと改良すると採択されやすい」という罠。グラフ化の方針を昨年のまま踏襲すれば,あとは数値さえ高められればよいので,それに注力することができる。まずはこの王道的プロセスで「整備されたシナリオ上での改良」というヒットを安定して打てるようになることが望ましいが,そこで満足してしまうとホームランは狙えない。
これに対して,「やってみた」という先駆的な試みが埋もれてしまうことへの危惧から,証拠を伴わない発表の機会が増えてきている。これは「研ぎ究める前の原石 」が脚光を浴びているということであり,イノベーションやホームランの可能性を期待させる。かつて,Walkman・VAIO・SONY Musicを有するSONYからiPodの構想が出てこなかったことへの反省が背景にある。昨年の改良に満足せず,新たな分野の定義(シナリオ創出)まで視野に入れた挑戦にはたいへんな価値がある。しかし,原石の価値を何らかの仮説に結び付けなければ,単なる言いっぱなしであって,研究したことにはならないことを充分に覚悟しておく必要がある。本当に素晴らしいアイディアならば,研究なんかにせずに起業すればよい。
「整備されたシナリオ上での改良」と「起業レベルの原石創出」の乖離を埋めるためには,シナリオ創出まで視野に入れた研究を常に意識することが肝要。
社会に出ると嫌でも手広く色々なことに首を突っ込むことになる。学生時代の特権は「すべての時間を1つのことに集中できる点」につきる。学生時代に広く浅くと考えることは否定はしないまでも,それはあくまで1つはどっぷり浸かっているものがあることが前提。「選択と集中」が学生時代にもっとも優先して考えるべきこと。
卒論
1年間で「研究のプロセスを一通り経験する」ことが目標。
ただし,途中で大学院入試があったり,12月から1月頃に学会投稿のタイミングが来るため,実際に研究ばかりやっていられる時間は限られる。特に「結果が出た瞬間に原稿を書ける」という誤解には要注意。何度も口頭でディスカッション(簡易プレゼン)を重ね ,細かい軌道修正を繰り返してきた蓄積が最後は効いてくる。同期と話す,先輩と話すことを習慣にして,プレゼン資料ができたらそれを骨格にして太らせることで原稿化するのが,1つの近道。また,卒論執筆前の学会投稿が間に合えば,学会原稿のタイミングで詳細を一気に詰めることができるため,確実によい卒論を仕上げることができる。
要は,日頃からさんざん議論し,数ページの学会原稿のレベルで完成度を高めたものの,最後の出がらしが卒業論文という位置づけになるのが理想。
日頃の議論には,システムの図面や結果のグラフが必要で,常にそれを用意することを心掛ける。どの順番でどれを強調してという流れが見えてくれば,あとは言葉を補って原稿化。審査会ではさらにビデオまで用意したい。全体としては,下記がおよその目安。
- 4月 研究室に慣れる
- 5月 テーマ確定:達成度 5%
- 6月 機器習得,サーベイ完了:達成度 15%
- 7月 中間報告に向けた成果出し(グラフ作成):達成度 25%
- 8月 大学院入試
- 9月 中間報告執筆:達成度 30%
- 10月 中間報告指摘事項への対応:達成度 50%
- 11月 物品購入〆切,ストーリー完成:達成度 70%
- 12月 成果取りまとめ:達成度 90%
- 1月 学会投稿,卒論執筆:達成度 95%
- 2月 卒論審査:達成度 100%
- 3月 オープンハウス,学会デビュー
参考までに,2016年度は下記の流れ。
- 9/16 中間報告提出締切
- 9/26- 中間報告発表会(2週間弱の期間のどこかで)
- 1/27 卒論題目締切
- 2/ 8 卒論提出締切
- 2/15 卒論審査
修論
2年間で「研究成果が世の中から見えるようになる」ことが目標。「あの研究って,苗村研なんだ」と言われればOK。 学府と電情でスケジュールが若干異なるが,節目となるのは下記。
- M2 春 中間報告
- M2 12月 修論題目確定
ここで問題なのは,就活のタイミング。就活前に学会投稿レベルの成果を出しておくのが吉。このタイミングで成果があれば,修士の間に国際会議に出ていくことも可能になる(例えばM1の1月に投稿すれば,M2の8月海外発表など)。 全体として下記がおよその目安。
- M1 夏学期 単位取得完了,テーマ確定
- M1 冬学期 輪講(電情),成果出し第一弾(含 冬の制作展),投稿第一弾
- M2 夏学期 中間報告(学府構想発表会&研究法,電情輪講),学会発表第一弾,成果出し第二弾,投稿第二弾
- M2 秋 学会発表第二弾
- M2 冬 査読付論文投稿,修論執筆&審査
2016年度は下記の流れ。
-
学府
- 12/ 6 学府:修論題目締切
- 1/13 学府:修論締切
- 2/ 2- 学府:修論審査
-
電情
- 1/27 電情:修論題目締切
- 2/ 3 電情:修論締切
- 2/ 6- 電情:修論審査
ここで要注意なのは,学府は電情に対して2ヵ月早く題目締切が来て,1ヶ月早く修論を提出するが,審査日程は4日しかずれていない点。電情の方が書いている時間や,しゃべる準備の時間が短くなっているだけなので,実際にキツイのは電情の方。 学府のペースに合わせるのが吉。すなわち,12月の段階で学会発表済みでなければ題目も決まらない,1月上旬に原稿が書けていなければ,まともな発表準備はできない。
博論
3年間で「研究者としてコミュニティから認められる」ことが目標。「あの人,苗村研なんだ」と言われればOK。
目安として,査読付き論文3本分の内容が要求される。3つをまとめて博論にするための労力が,これまた査読付き論文1本分に相当する。つまり4本分の時間を見積もる必要がある。
要注意なのは,D3の6月の段階で,2本分の内容が確定し,残り1本もほぼ見えている状況にないと,予備審査(D3の7月末)に進めないという点。さらに博論そのものの締め切りはD3の12月。査読付き論文の掲載には半年から1年以上を要するので,究極の成果を追い求めすぎると間に合わなくなる。
学内スケジュールは下記の通り。
- D1 春 研究計画(電情輪講)
- D1 11月 研究計画(学府コロキウム)
- D2 春 中間報告(電情輪講)
- D2 11月 中間報告(学府コロキウム)
- D3 6月 予備審査を開始するか判定(3本目の進捗次第)
- D3 7月 予備審査(原稿不要,プレゼン60分)
- D3 11月 予備審査論文提出(学府)
- D3 12月 博論提出(電情),第二次予備審査(学府)
- D3 1月 博論審査(電情),博論提出(学府)
- D3 2月 博論審査(学府)
これと査読付き論文の投稿・掲載のタイミングをどのようにあわせていくかが鍵。1本にかかる時間はバラバラなので,下記はあくまで目安。
1本目:D1秋までに結果を出して,冬までに投稿したい→ 学府D1コロキウム,電情D2輪講
2本目:D2夏までに結果を出して,秋までに投稿したい→ 学府D2コロキウム,電情D2輪講
3本目:D3春までに結果を出して,夏までに投稿したい→ 予備審査
参考までに,2013年度の電子情報は下記の流れだった。学府の場合は,予備審査と本審査の間に,2次予備審査が入る。
- 6/ 7 予備審査に進むかの申請締切
- 7/24 博論予備審査
- 12/13 博論締切
- 1/29 博論本審査