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学会について
学会の使命
学会の使命はおよそ下記に集約される。
- 散逸した知(研究成果)を集約する:collection
- 研究成果の価値を評価する:evaluation
- 研究成果を生み出す場を提供する:encouragement
collectionに関しては,インターネット時代を迎え,散らばっていても検索できるようになってきた。しかし検索による収集にはノイズが多分に含まれ,それを使いこなすリテラシーが要求される。また,誰にでも見付けられる資料以上に「自分だけが知っている資料」にこそ価値があったり,思いもよらぬ知見との出会いが新たな創造を生み出すなど,検索では得にくい集約としてのcollectionの意義をよく認識しておく必要がある。ググれなければお話しにならないが,ググるだけでは勝負にならない。
evaluationに関しては,誤った知を排除し,適切な体系を構築するとともに,個々の研究成果を品質保証する仕組みとして,学会の最も重要な存在意義になっている。しかし,評価方法(査読方法)の形式にとらわれ過ぎて,あまりに画期的過ぎる研究が排除されるリスクを伴うという状況を生み出している。いわゆる基幹論文誌(Journal)や分野別論文誌(Transaction)においては,長期に渡る評価や修正指示などを経た絶対評価による採択がなされている。一方,国際会議などでは,速報性を優先して短期間に,そして時間やスペースの関係から上位何件という相対評価による採択がなされている。
encouragementに関しては,evaluationを受ける前の未成熟な研究成果から議論する場を提供することで,完成度の高い研究成果を生み出す 役割を担っている。数百から数千人規模のConference,百人規模のSymposium, 数十人規模のWorkshop(研究会)などがこれに相当する。ここでは,有意義なフィードバックを得られるか否かが本来重要であり,結果として分野の細分化に拍車を掛けている。また,多数の人に知ってもらうこともencourageになるが,学会がどこまでリーチするかというと,数百から数千人程度。未来館展示(来場者数十万人),新聞報道(日経新聞で300万部),テレビ放送(1.2億人に視聴率10%のニュース番組で1200万人)に比べると桁違いに少ない。その隙間にある数千から数万規模を埋める存在としてネット配信が利用されるようになってきている。
査読
査読で何が評価されるのかと言うと,論文誌によって多少は異なるが,基本的には
- 新規性
- 有用性
- 再現性
- 合理性
などに集約される。「新規性」は,過去の研究との対比を通じて,何がどの程度新しいのかを正しく明確化されているかを問われる。「有用性」は,誰もやっていなくて新しいのは,単に役に立たないからじゃないかという疑問に答える責務を負う。「再現性」は,読者が同じものを再現して,さらにその上に新たな研究を積み上げていくことが可能であるのかが問われる。以上の3つを主張するために要求されるのは,説明手段の「合理性」である。ここでは,論理的な議論が展開され,読者を納得させるに充分な記述がなされているか,評価手法が妥当で意味のある判断がなされているのかなどが問われる。
これに関連し,標語として「研究さしすせそ」を提唱した。
- さ 再現性
- し 新規性
- す 数量性:上記の有用性を定量的に
- せ 整合性:上記の合理性
- そ 速報性:以上を踏まえて,さっさと書く
新規性
「新規性」は,サーベイのために集めた論文を「僕,知ってるよ」と羅列するだけでは主張できず,そこに独自の視点を与えてストーリーを作る必要がある。研究の途中段階では,漠然と新しいことは主張できるだろうと思い描きながら研究を進めていくが,いざきちんと書き下そうとしたところで,単なる羅列に陥ることがしばしばある。ここを上手にクリアできるかが研究者としての実力になってくる。
有用性
「有用性」は,そんな研究をやる必要ないでしょ,役に立たないでしょと言われないための理論武装である。ここは学会によって要求レベルが異なってくる難しいところ。不思議なことが明らかになるだけでよかったり,社会実装してサービス化するレベルが要求されたり。そもそも,女子高生のニーズをおじさん査読者が判断するのも困難であり,投稿するコミュニティの文化が色濃く反映されるところ。アート系では「有用性」を「表現性」に読み替えて評価する。
再現性
「再現性」は,どのような機材を用いたのかを記すことが最低限必要。システム設計の際には,各種パラメータを変数として定式化をして,具体的な実装でこのパラメータの具体的な数値をこのように設定したという議論を展開するのが望ましい。最近は,ソフトウェアであれば,ソースコードの公開(中身をぜんぶ他者に与える)やwebサービスとして公開(ソースは手元管理)などが再現性を決定づける方法として採用されている。これにハードウェアでも,実装可能な情報を極力公開するための仕組みが検討されている。
合理性
前述した「新規性」「有用性」「再現性」を明らかにすることが論文執筆の目的であり,「合理性」はそのための手段である。「合理性」は,さらに噛み砕くと
- 目的:何ができれば満足なんだよ?
- 課題:業者に丸投げできないの?
- 提案:どんな工夫をしたの?
- 評価:で,どうなった?
の4項目が,「過不足なく論理的に結びついている」必要がある。ここでも関係ない知識をひけらかすことがないように注意が必要。オープンハウスのポスターなどは,この4構成で4コマ漫画を描くつもりで準備すべし。
「目的」を語るためには,時代的背景や自身の信念,および関連研究への配慮が必要になる。ただし,実際には評価まで至っていない大きなことまで語り出すと論理的整合性が失われてしまう。研究に着手した頃の壮大な目的を書き連ねるのではなく,結果的にどこまで評価できたのかで適切な目的へと軌道修正する必要がある。「有用性」を語るのはここ。
「課題」は,目的達成のために伴う困難を明らかにするためにある。課題がないなら研究ではなく,業者に発注して終わり。「課題」を語る手段として「関連研究」があり,過去の成果では不足する点を明らかにする必要あり。特に定量的な数値をあげ,どこまで実現する必要があるのかという研究のゴールを明らかにしたい。「新規性」主張に向けた前振りであり伏線。
「提案」は課題を解決するために,何らかの仮定や新たな発想・価値を導入したり,既存研究を組み合わせるなどの提案を行う部分。あくまで,課題との一対一対応に充分気を付ける必要がある。課題にあげて悪口を言ったくせに,提案しない(解決しない)はご法度。「新規性」を明らかにするのがここ。
「評価」の神髄は,定量化にある。結構いいかもという程度の予見を,何パーセントの確率で何パーセントの改善が見られるのかという数値を出す。どんなグラフを描くかを先に考えておかないと研究として崩壊する。これに定性的な評価が加わると深みを増す。評価していないことは,提案しっぱなしに過ぎず,課題は解決されたことにならないため,目的としても達成されたことにならない。ここで再び「有用性」があるか否かが問われ,また具体的なパラメータなどの「再現性」も担保することに。